「現場から語る、液状化対策のリアル 〜全棟で向き合うハウスメーカーの挑戦〜」
インタビュー
「液状化のリスクについて、お客様に署名をいただいています」
年間数万戸の住宅を供給するハウスメーカーとして、積水ハウス株式会社は2015年から全ての建物で液状化危険度判定を実施し、顧客に説明している。東日本大震災、熊本地震、能登半島地震。繰り返される液状化被害の中で、ハウスメーカーが向き合う課題と、国産木材を使った新工法の可能性について聞いた。
PROFILE
積水ハウス株式会社
基礎地盤テクノロジーセンター 地盤構造グループ グループリーダー
八木 正雄氏
Section 1:全棟で向き合う、という選択
リーフレット「液状化への備え」に込めた想い
-貴社では営業担当者が顧客用に液状化リスクを説明する共通のリーフレット“液状化への備え”を作成されていらっしゃいます。こちらを作成した背景を教えてください。
一般の方が地盤の液状化現象を正確に理解することは難しいと考えています。そのため、如何に分かりやすく理解していただくかを考えて作成しました。また、営業担当者が、お客様に液状化について説明する際、漏らさず説明するために全社統一のリーフレットを作成しました。
-営業担当者の方が実際にリーフレットを使って顧客に接する点で貴社として重視している点はございますか。
液状化に関する情報を正確に伝えることが重要であると考えています。そのため、お客様にはリーフレットと液状化検討の診断結果を含めた基礎仕様判定書をセットで提示しています。また、お客様がその内容を確認・了承したことを明確にするために署名をお願いしています。
-この基礎仕様判定書はどの時期で提示することが多いでしょうか。
契約のタイミングが多いです。この基礎仕様判定書の内容次第で地盤補強の有無が決まり、費用が変わります。ほとんどのお客様が限られた予算で建物を建築されますので、基礎仕様判定書の説明は重要です。
2015年からの挑戦
-貴社は全ての顧客に対し無償で液状化危険度判定を実施されていますが、いつから、どのようなきっかけで始められたのでしょうか。方法もお伺いできますでしょうか。
液状化に関する説明は、建売住宅も含めて全建物で実施しています。2015年に施行された住宅性能表示制度から、液状化に関する説明を全建物で実施することにしました。基本はSWS試験で調査し、液状化判定は小規模建築物基礎設計指針に準拠して実施します。ただし、ほとんどのお客様は液状化対策の優先順位が上位でないのが実情です。
-希望される顧客に対しては液状化詳細判定を有償で実施されています。どういった方法で実施されていますでしょうか。
当社の詳細判定は、建築基礎構造設計指針に準拠してFL法(液状化の危険度を数値評価する手法)で実施します。詳細判定にはボーリング調査を必ず実施し室内土質試験をしたうえで、FL法で液状化危険度を判定します。費用は地盤条件によってばらつきがありますが、詳細判定までされるのは稀なケースです。
事前に液状化マップで概略の液状化リスクを説明していますので、液状化対策の意思があるお客様以外は詳細判定まで行わないことが多いです。
-リーフレットには、液状化に関して基本対策、軽減対策、有効な対策が記載されています。この選定理由がありましたら、お聞かせください。また、採用割合はどうでしょうか。
お客様に液状化対策を納得して選んでいただくために、事前の対策を3段階で設定しています。ただし、実際には地震保険を採用されるお客様が多く、事前の液状化対策を実施するお客様は非常に稀です。地盤補強の中で、鋼管杭を非液状化層まで到達させるという工法の採用は一定以上あります。なお、建売住宅の場合も注文住宅の場合と同じ液状化対策を提案しています。

※ SWS試験:スクリューウエイト貫入試験、ロッドを回転させながら地中に貫入し、地盤の硬さを測定する。
※ FL法:液状化の危険度を数値評価する手法
Section 2:震災が生んだ技術
SHEAD工法、戸建て住宅用に改良した液状化対策
-SHEAD工法はどういった背景で開発されたものでしょうか。東日本大震災の前後で、液状化に対する顧客の意識の変化などがございましたか。
東日本大震災では多くの方が液状化被害にあわれました。住宅を供給する立場として液状化対策が必要だと考え、SHEAD工法を株式会社竹中土木様と共同で開発しました。土木分野や大型建築物では実績のある工法ですが、戸建て住宅用の施工をできるように改良した点がポイントです。
重量が10~15トンで深度10mまで施工可能な機械を使用しています。特に東日本大震災の後、液状化に関する関心が高くなっています。特に被災された方は対策に関心が高く、熊本地震後の建て直しの補助金を利用してSHEAD工法を採用していただいたケースもあります。

Section 3:木材が守る、未来の住まい
環境にやさしいSH-KPパイル工法
-2025年11月11日に兼松サステック株式会社と共同開発した、環境負荷の低減を実現する新たな地盤補強工法SH-KPパイル工法を紹介されています。こちらの内容について、概要を教えてくださいますか。
地盤補強工法SH-KPパイル工法の特徴は木材を使用することです。木材は国産で主に杉を使います。また、カーボンニュートラルでCO2排出量を削減するという利点もあります。一般的なコンクリートや鉄を使用した杭では、1トンあたりCO2が約8トン発生すると言われています。本工法を採用することで、木材が成長する過程を含みますとCO2が10トン削減になると試算(兼松サステックによる)しています。
-耐久性はいかがでしょうか。また、国産である意義についてもお聞きしたいです。
耐久性については、様々な試験を行っています。また、お客様には丁寧に説明することで安心していただけるように努めています。国産については、国内の林業の需要を作るという点が重要であると考えています。当社ではこれまでも木造住宅を建築していますが、構造材は主に輸入材です。今後は国産の木材を使う意義が大きいと考えています。
-今後この工法をどういった規模の建築物に適用していきたいですか。
本工法は、主に3階建て以下の戸建て住宅を対象とした工法で、小規模建築物で(一財)日本建築総合試験所の建築技術性能証明を取得しています。ただし、液状化対策としては客観的な証明を取得していません。この工法を液状化対策として設計する場合は、地盤改良部を非液状化層に到達させることで軽減対策になると考えています。
その場合、3階建てでは建物重量がやや重たいため、主に2階建て以下の採用になると考えています。
Section 4:コストという壁を越えて
面的対策のメリットと、これからの展望
-令和6年能登半島地震では戸建て住宅の液状化被害が目立ちました。業界でも戸建て住宅に対する対応策が求められている実情がございます。今後、液状化対策を戸建て住宅に展開していくための課題をお持ちでしたら、お聞かせください。
一番の課題は、コストです。東京都で実施されている補助制度が拡充されるとハウスメーカーとしては非常にありがたいと考えています。それから工法の適用範囲を広げることです。近年当社では大規模な宅地開発は少ないですが、宅地開発事業の場合は、液状化対策費用が区画数で割ったコストになること、道路と宅地の一体対策ができることがメリットになると考えています。

Section 5:液状化対策が「当たり前」の社会を目指して
-東京都としてはコンソーシアム全体で液状化対策が当たり前に実施されるような世の中となるよう、気運を高めていきたいと考えています。今後そうしたことを推進するためにどういった施策が必要だと考えていますか。
ハウスメーカーの立場として、啓蒙活動で液状化リスクを周知することが重要であると考えています。また、東京都の液状化対策の補助金をより活用しやすい形にしていくことが重要です。更に工法を安価にすることも同時に必要であると考えています。液状化対策工法が普及できれば、耐震化工法と同様に義務化の流れも生まれやすいのではないかと考えています。
「補助金をより活用しやすい形に。
工法が普及すれば、
義務化の流れも生まれやすい」
八木 正雄 氏
-貴社はコンソーシアムの中でどういった役割を発揮していただけますでしょうか。
当社も液状化対策について情報収集していますので、コンソーシアムの活動は今後の工法開発に向けて参考になります。また、いろいろな分野の方が参加していますので、当社と違う見方や知見を吸収したり、議論したりすることによって社会課題の解決に向けて尽力していきたいと考えています。

年間数万戸を供給するハウスメーカーとして、全ての顧客に液状化リスクを説明する。
その地道な積み重ねが、いつか「当たり前」になる日を信じて。環境配慮と安全性を両立する新技術の開発を続けながら、積水ハウスは液状化対策の普及という社会課題に挑み続けている。