「環境配慮と液状化対策の両立を目指して~飛島建設が挑むGX時代の地盤改良技術~」
インタビュー
「丸太を使った地盤改良は、CO₂を地中に閉じ込める」
――1883年創業の総合建設会社、飛島建設株式会社は、GX(グリーントランスフォーメーション)時代の液状化対策に挑んでいる。丸太打設による地盤改良技術は、CO₂削減と液状化対策を同時に実現する。繰り返される地震災害の中で、環境負荷低減と液状化発生抑制の両立という新たな視点から地盤改良分野の未来を切り拓く取り組みについて聞いた。
PROFILE
村田拓海
飛島建設株式会社 技術研究所 研究開発グループ 生産システム研究室
GX領域(地盤基礎分野)副主任研究員
Section 1:木杭の発見
木材が利用されるようになるまで
-貴社は土木・建築・環境分野と幅広く技術を保有されています。その中で、建築物の地盤改良分野の事業について本日はお聞かせください。こうした事業に力を入れるようになられた理由や経緯等について、お聞かせいただけますか。
橋脚解体工事の際、その時から60年以上前に打設されたと推定される木杭がきれいな状態で出てきました。調べてみると、木杭は水の中に入っても腐らないことがわかってきました。当時まだ木材を使うことは環境破壊というイメージを持っておりましたが、調べてみると「植える」「使う」サイクルは、森林や環境にとってむしろいいことだということも分かりました。こうした発見から、木材は耐久性や環境負荷の面から優れたもので、軟弱地盤対策や液状化対策の材料として使用する契機となったと振り返っています。
-この木材を利活用するという工法ですが貴社で保有する丸太打設液状化対策&カーボンストップ工法(LP-LiC工法)の原理についてお聞かせいただけますでしょうか。
1964年新潟地震時の新潟駅のエピソードがあります。現在は解体が進んで撤去されているそうですが、当時駅本屋に木杭が使われていました。駅周辺広範囲で液状化被害を被ったわけですが、駅本屋自体にほとんど被害はなかったそうです。当時まだ液状化という言葉が定着していなかった頃ですが、当時の設計者が木杭を打ち込み地盤を密実にすることで流砂現象を防ごうとしたと記載の文献が残っています。

Section 2:LP-LiC工法のメリットと実績
木材の炭素貯蔵効果
-LP-LiC工法は液状化対策をしつつ環境に配慮できる工法ということで、環境配慮の仕組みをお聞かせいただけますか。
木材は植えてから成長するまで、光合成によって大きくなります。その間CO₂を吸ってO₂を出すので、炭素(C)は木材中に固定されます。ここで、樹木は樹種に限らず乾燥質量の50パーセントが炭素(C)で構成されており、伐採して木材となった後も燃えたり腐ったりしない限り炭素が大気中に放出されることはありません。つまり木材が腐らず燃えずに木材のままでい続ければ、質量の50パーセント分の炭素が大気中から除去されたままの状態になります。丸太を使った地盤改良はCO₂を地中に閉じ込める工法になります。
施工実績
-LP-LiC工法の施工実績について伺いたいと思います。低振動・低騒音という特徴も施工実績に関連していると思いますがこの辺りについていかがでしょうか。
建築関係では例えばマンションの外構部です。マンション自体は杭基礎で支えられていますが、敷地内の外構部は液状化リスクがあり、敷地の対策に採用いただくことがあります。また、都内の戸建て住宅でも施工実績がございます。小型の杭打ち機を使って静的に回転貫入するため、低振動・低騒音という特徴のほかに周辺の構造物に与える影響が比較的少ないという点が特徴です。こうした点が戸建て住宅での採用につながっていると認識しています。
-その他施工実績があればお聞かせください。
青森県八戸市の漁港岸壁の背後にある埋立地盤にLP-LiC工法を施工した箇所がございます。2025年12月8日に発生した青森県東方沖を震源とする地震では、未改良の埋立地盤で液状化が発生しておりますが、当該地は震度6弱を記録したものの被害は認められませんでした。こうした実績は今後研究成果として公表していきたいと考えています。

Section 3:工法の普及活動
LP工法協会
-今後LP-LiC工法などの工法を戸建て住宅に普及していくための展望がありましたらお聞かせいただけますか。
工法を普及していかないといけないと感じており、弊社と住友林業様とミサホーム様の3社で2024年12月にLP工法協会を立ち上げました。月1回程度の頻度で技術委員会を開催し、工法の技術的な課題や普及するための方策を検討するほか、設計や施工業者向けの講習会を開催しています。
グリーンインフラ産業展
-工法の普及に関して、さまざまな展示会に出展されていると認識しておりますが、出展活動の目的について聞かせていただけますでしょうか。なかでも、グリーンインフラ産業展についてお聞きします。こちらに訪れる方は建設業界関係者が多いでしょうか、それとも林業に従事される方々でしょうか。
目的に関しては、まずは色々な関係者に木材を用いた液状化対策や軟弱地盤対策のことを知ってもらうこと、です。グリーンインフラ産業展は初回から毎年参加させていただいており、建設業界だけでなく、林業に従事される企業や森林組合の方々などを対象に、木材の活用機会をお示しさせていただいています。
Section 4:林業の需要創出を目指して
更なる木材の利活用
-新しい炭素貯蔵技術として紹介されている木質コラムの取り組みに関して聞かせてください。
気候変動の緩和のためには、森林サイクルの「植える」が非常に重要ですが、我が国の再造林率は3~4割程度にとどまっています。「植える」を促進させるためには、低品質な木材の新たな需要を創出し、価値を上げる必要がありますが、これらの木材は径の細いものや太いもの、曲がったものなど多種多様なので、従来のLP-LiC工法では活用が難しいという課題がありました。このような背景から、どのような径でも束状にすることで、地中の液状化対策の改良体として扱えないかと考えたところが出発点になります。さまざまな木材が利活用されるようになることで林業自体に需要を創出して木材の価値を上げ、「植える」「使う」という森林のサイクルを回すことができないかと考えています。


-実際の施工性はいかがでしょうか。この木質コラムを液状化対策へ展開していく展望はございますか。
LP-LiC工法では先端が閉塞した鋼管で孔を事前に掘り、鋼管を抜いてできた孔に対して、孔壁が迫ってくる前に丸太を打設する、といった施工方法をとっているため、地盤によっては丸太が打設しにくく、施工性が安定しないことがあります。木質コラムの場合、杭打ち機に取り付けたケーシング中にコラムを入れた状態で所定の深度まで掘り、所定の深度に達したらケーシングを引き抜くため、このようなリスクを減らすことができます。まだ工法には改良する部分がありますが、いずれは中小規模の建築物にも対応できるようなものにしていくことも考えています。
※ケーシング:施工する際の鉄の保護管
Section 5:東京の未来へ
液状化対策が「当たり前」の社会を目指して
-東京都としてはコンソーシアム全体で液状化対策が当たり前に実施されるような世の中となるよう、気運を高めていきたいと考えています。今後そうしたことを推進するためにどういった施策が必要だと考えていますか。
液状化対策となると通常の杭状地盤改良に比べるとコストは高くなります。そのため、都民の皆様方にとって通常の杭状地盤改良と同程度のコスト負担になる自治体の補助施策があれば良いと思います。また、将来的に液状化リスクの説明を義務化する、条例や法的拘束力があれば違うのではないかと考えます。あとは工法開発者の目線ですが、自治体側から液状化対策工法の実証実験の場を提供していただけると、工法の高品質化や低コスト化などはより進歩すると思います。実際にLP-LiC工法は、東日本大震災後に浦安市様が主催する液状化対策工法の実証実験(浦安市:市の施設を利用した液状化対策工法の実証実験成果報告
https://www.city.urayasu.lg.jp/todokede/anzen/bousai/shinsai/ekijoka/1002235.html
に参加させていただいたことを契機に、大きく実用化に前進し、現在の展開に至っております。
-貴社はコンソーシアムの中でどういった役割を発揮していただけますでしょうか。
工法事業者として工法の品質を落とさずにコストを下げてより使いやすくできるかを検討すること。それから先ほど示したLP工法協会等の場を通じ、液状化対策をいろんな人に知ってもらって、液状化対策が当たり前に行われる世の中の実現に貢献できたらと考えています。
丸太を使った地盤改良は、CO₂を地中に閉じ込めるその言葉が象徴するように、液状化対策は新たな時代を迎えている。
環境負荷低減と液状化発生抑制の両立――
科学的なアプローチで丸太打設工法の可能性を追求する姿勢が印象的だった。GX時代の地盤改良技術として、飛島建設は 液状化対策の未来を切り拓き続けている。