「地域全体で守る、液状化に強いまちづくり―レジェンドパイプ工法協会が描く未来―」
インタビュー
「個別対策では限界がある。市街地は地域全体で守らなければならない」
東日本大震災後、市街地液状化対策事業が創設され、レジェンドパイプ工法協会は宅地と道路インフラを含めた一体的な対策を推進してきた。北は北海道、南は熊本、そして能登半島へと。繰り返される液状化被害の現場で培われた技術と、地域全体で液状化に強いまちをつくる取り組みについて聞いた。
PROFILE
橋ヶ谷直之 (写真左)
レジェンドパイプ工法協会 理事
鈴木章弘(写真右)
レジェンドパイプ工法協会 事務局長
Section 1:地下水位低下工法採用の契機
さまざまな施工方式
-まずは地下水位低下工法の一般的な内容について伺いたいと思います。数ある工法の中で宅地と道路のインフラを含めた一体的な液状化対策が可能な工法ですが、主な施工方式についてお聞かせください。大きく排水管方式と井戸方式にわかれ、排水管方式の中でも開削工法や推進工法にまたわかれると認識しています。
30年前の阪神淡路大震災、尼崎市で初めて開削工法による地下水位低下工法による対策が行われました。その後約全国10か所ほど開削での施工、東日本大震災語に茨城県や埼玉県などで開削による対策が行われています。当時は塩ビの有孔管で周りに単粒の砕石を引いて集水する方法でしたが、その後管を敷設するだけ集水可能なMPDパイプが登場しました。
10年前千葉市でこのMPDパイプを使って初めて推進工法による施工が行われました。当時はまだ現在の推進工法が確立していない時期でしたので苦労も生じました。
施工実績
排水管方式の場合、設計は基本的には自然流下でしょうか。ポンプによる汲み上げを採用するのでしょうか。施工実績が増えてきた背景をどのように分析されていますか。
熊本市の液状化防止対策工事で推進工法を採用いただきましたが、どうしても道路の狭い箇所や管を繋げない箇所で井戸方式と排水管方式の併用となりました。井戸方式はポンプで汲み上げるしかないのですが、排水管方式であれば放流先に流せれば浸透圧で管に水が入ってくる形になります。札幌市は標高が高いので自然流下で設計されています。
当協会の最初の施工は北海道の北広島市です。そのあとの札幌市、厚真町、熊本市、この3地区は比較的推進延長が長い実績となりました。
-北海道の北広島市、札幌市、厚真町、これらはいずれも平成30年北海道胆振東部地震後の液状化対策に関連する事業があったということでしょうか。
北広島市での施工実績が契機となったと感じています。施工期間中に市や設計施工業者等関係者が視察に来ていただく機会などがあり、徐々に札幌市や厚真町と工法が広がっていくことになったと振り返っています。

Section 2:レジェンドパイプ工法への進展
推進技術の進歩
-ここからはレジェンドパイプ工法の技術の具体的な中身について聞かせてください。パイプを実際に推進していく技術について聞かせていただけますか。
パイプは1m10kg程度で比較的軽く一定耐久性を所持しています。パイプを推進する際には、予めバックホウで2mの立坑を掘削し、そこに機械を投入します。そのため、比較的狭隘な空間で施工が可能です。立坑には通常は発進立坑と到達立坑があり、まず発進側に機械をセットして掘進しながら鋼管を推進していきます。次に、パイプを挿入します。最後に最初に推進した鋼管を発進側に引き抜き、一連の工程が完了します。
-10年前の千葉市での施工当時、この推進技術は確立していたのでしょうか。
当時は立坑径に2.5m必要で今より工程が多かったです。その後、到達立坑を確保できない空間が施行対象となることがあり、リターン推進という工法技術に進展します。
新たな工法―リターン推進―
-到達立坑不要のリターン推進が生まれたということですが、施工条件におけるノーマル推進とリターン推進の使い分けはいかがでしょうか。
単純な経済比較をするとリターン推進の方が高くなるため、敷地の制約で到達立坑を確保できない場合にリターン推進を提案するのが一般的です。また、傾斜地で施工する際パイプ挿入深度に併せて立坑深度が深くなり、経済比較の結果リターン推進を提案することがあります。維持管理の観点から立坑が2箇所ある方が管を点検しやすいですから、通常はノーマル推進を提案しています。
-この推進工法に専門の資格は必要でしょうか。
はい、ございます。パイプ挿入、鋼管引き抜き、リターン推進、等通常の下水道管推進とは異なる工程が存在するため、新たに資格制度を作り、約半日座学で研修していただいたのち、現場でも1サイクル実施工を体験してもらうようにして安全管理をおこなっています。



※リターン型:到達立坑が無い場合は、リターン型推進工法で施工が可能です。掘進機が目的地まで到達したら、掘進機先端のビットが格納され、鋼管内を掘進機が戻ってくることが出来ます。到達立坑が構築できない場合や到達側が必要ない場合で適用されます。
維持管理・メンテナンス事業
-維持管理は具体的にどのようなことをされていますか。
単純な経済比較をするとリターン推進の方が高くなるため、敷地の制約で到達立坑を確保できない場合にリターン推進を提案するのが一般的です。また、傾斜地で施工する際パイプ挿入深度に併せて立坑深度が深くなり、経済比較の結果リターン推進を提案することがあります。維持管理の観点から立坑が2箇所ある方が管を点検しやすいですから、通常はノーマル推進を提案しています。

Section 3:令和6年能登半島地震後の対応
実証実験による効果確認
-令和6年能登半島地震を受け、2025年から実証実験を行われていると伺いました。この実証実験では具体的にどのようなことをされるのでしょうか。
ボーリング調査の結果から想定した地下水位低下機能は実際に効果の確認ができません。そのため実施工前に試験施工して実際に地下水が下がるかどうか、また地盤が沈下しないか、を確認する運用としています。
こうした実証実験は一般に液状化被害があった場所付近の地形や地下水、土質の条件が近い公園や学校で実施します。あるいは実際に施工する箇所の一部で行うこともあります。これまで能登半島では、現在石川県の金沢市や羽咋市、富山県の射水市や高岡市などで行っています。
現場見学会と住民説明会の開催
-この実証実験では現地の住民の方とやり取りをするような機会もありましたか。
金沢市では施工した場所で現場見学会と住民説明会を実施しました。当日金沢市長を始め学識の先生、マスコミの方々もお見えになられて、液状化の実験装置を用いた実演もしました。この実験装置は、アクリル板の中に砂を入れて地下水を操作し、振動を与えて液状化の有無を再現するというものなのですが、住民に対策効果を説明するうえで有効だったと思います。

Section 4:レジェンドパイプ工法の普及に向けて
事後対策から事前対策へ
-展示会へ積極的に出展されていますね。これまでどういったイベントへ出展されていますか。
実際のパイプを展示することに加え、実験装置を用いることでお客さんに立ち止まっていただくようにしています。昨年(2025年)は「メンテナンス・レジリエンスTOKYO2025」や「けんせつフェア北陸2025in新潟」、「建設技術フェア2025 in 中部」に出展し、工法のアピールをしました。また、江戸川区主催の「防災防犯FES」にも参加しました。
-工法の普及について今後展望がありましたらお聞かせいただけますか。
当協会では主に液状化被害を被った箇所で対策工事を請け負っておりますが、今後は事前対策にも貢献したいと思っています。東京都の取り組みを契機に、事前に液状化対策を実施する流れが広がり、当協会の工法に限らず有効な手法が採用されれば、波及効果が期待できると考えています。下水道に普及率の指標があるように、液状化対策についても一定の普及率になるような形になればと思います。


Section 5:東京の未来へ
液状化対策が「当たり前」の社会を目指して
-東京都としてはコンソーシアム全体で液状化対策が当たり前に実施されるような世の中となるよう、気運を高めていきたいと考えています。今後そうしたことを推進するためにどういった施策が必要だと考えていますか。
コンソーシアの各構成員の工法を整理することが良いと考えます。各工法によって長所が異なりますので、状況に適した工法について予め整理しておくことで、都における詳細な検討や工法説明会開催時に有効活用できるのではないか思います。
また、液状化の危険性がある箇所はまだ十分に認識されていないと思っています。一度液状化した箇所は再度発生すると言われています。コンソーシアムでは液状化に関する様々な情報が集まっていると思いますので、情報をどのように使っていくか、全員で考えていければと思います。
「事前対策にも貢献したい」
その言葉が象徴するように、液状化対策は新たな段階を迎えている。
これまで被災地での事後対策で実績を積み重ねてきたレジェンドパイプ工法協会。
東京都の取り組みを契機に、事前に液状化対策を実施する流れが広がることへの期待が語られた。
個別対策では限界のある市街地において、地域全体で液状化に強いまちをつくる。
その普及啓発活動は、これからも続いていく。